東京電力福島第一原子力発電所の事故は世界を揺るがした。 原子力を経済成長とCO2排出量削減の要請を共に満たす切り札とする“原発ルネサンス”に急ブレーキがかかった。 欧州 脱原発を決めたのがドイツ、スイス、イタリア。 原発維持を掲げるのがフランスである。 送電網がつながり電力を原発大国フランスから買えるという事情があり、市場統合が各国の政策選択にも影響を及ぼしている。 フランスはリスクを一手に引き受ける一方、アレバ社に見られるように技術を独占的に売ることで高いリターンを得る選択をしているように見える。 これは、核兵器を保有し核戦争に備える国の選択でもある。 フランス国民はこのような選択を是認し続けるのか。 周辺国にしても、脱原発を選択したものの、フランスや東欧で大きな原発事故があれば影響が及ぶ。 欧州では、原発の是非は、過去も今も国民的な議論を呼ぶ。 日本では、3・11以後、原発に対する国民的な関心は飛躍的に高まったものの、国民の意思が国の政策決定に影響を与える仕組みが作れるかどうかは心もとない。 日本の原発は、政治家、官僚、電力会社が癒着して推進し、大手メディアもこれに追随してきた。 情報が封印され、反原発は“左翼的イデオロギーを持つ人たちの主張”とのレッテルが張られた。 「推進派対活動家」 の図式ができ上がり、一般の市民が、情報開示に基づきリスクやコストと便益を比較衡量し、意見を持つ、という姿にならなかった。 14日に閣議決定された原発被害者への賠償の政府案も自民党時代と何ら変わらない政官財の癒着で決まった。 日本でも原発建設をめぐって住民投票が行われた例はある。 ほかの迷惑施設同様、 いわゆるNIMBY(Not In My Back Yard、自分の裏庭はやめてくれ) に対応した形である。 菅直人政権は「ひとつになろう」「絆」などと情緒に浸っているが、世界の現実は厳しい。 内憂に外患がついてくる。 汚染水の排出に対して日本に損害賠償を求めようという動きまで出始めた。 先ずは、 電力自由化を急げ! 現状は、コストに関係なく決められた価格で電力を使い放題にする仕組みなので、需給が逼迫する。 自家発電業者の能力は大きいのに、鉄鋼会社などは、本業での電力会社とのつながりを優先し、口を覆って自由化を主張しない。 送電網を開放し、発電業者が競争すること、前日スポット市場で翌日の需要量と供給量をぶつけて価格を決定し、リアルタイム市場で過不足を調整するという仕組みを作ることで、需要抑制と供給促進が図られ、電力の安定供給は確保できると主張する。電力自由化は急ぐべきだ。 関西電力による15%の節電要請を、 橋下徹大阪府知事は 「根拠がわからない」 「原発維持のためのブラフ」 「地域独占の弊害」と一蹴した。 8割に満たない電気使用率である。 電源のバランスは、国民を挙げて議論すべき問題だ。 イタリアのように国民投票が可能になれば、電力会社が捏造した試算ではなく、コストやリスクにかかわるあらゆる情報を入手して議論しよう、という機運が高まるだろう。 しかし、ここにも落とし穴は潜む。 設備の建設や補助金が新たな利権を生み、無駄な設備が増える可能性もある。 化石燃料を効率よく使う技術や、炭素税・排出権取引などの可能性も切り捨ててはならない。 日本の民主主義の脆弱さを克服できるかが問われる問題だ。