花と樹と風と土 ガーデン工房 結 -YUI- のガーデン通信
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朝方まで降り続いた雨もやんで、二日目は徐々に天候も回復していきました。 町の水田の99%がいまだに回復の見込みが立たず、わずか1%の田んぼだけで今年は作付を行いました。その数、枚数にして5枚。 水の流れの少ない半島で、しかも多くの田んぼが低い位置にあるため、除塩に必要な水が十分に確保できないというでした。 それが今回の調査地、吉田浜地区です。 耕作地としてこのように耕起されている田んぼだけではなく… かろうじて瓦礫の撤去だけは終えたという田んぼもまた、多くありました。 今回の調査は、したがって5枚残った対照水田と、被災水田の方はこうした場所の水たまりからサンプリングを行うことになりました。 まずはテントの設営から。 雨があがってさわやかな風が吹いていました。 この場所。 津波の被害を免れただけあって、谷が深くまで山の中に入り込んでいます。 気持ち良い風と鳴き交わす小鳥たちの声だけでなく、さらに多くの生命の気配に満ちた場所でした。 「いい処ですね」 「はい。いい処でしょ」 決まって向井助教と交わす言葉には、いつも確かな感触があります。 多くの生命が溢れる場所には濃密な空気や、植物たちの匂いが満ちていて、そこに降り立っただけでそうだと分かる何ものかが存在していて… そこがある種のサンクチュアリであることを教えてくれるのでした。 この被災を免れた5枚の田んぼが、それでも今年作付できたわけが有って、それがこの、 豊かに水をたたえた溜め池なのでした。 それがこのテント設営地のすぐ上に有って、それもまた生命たちを育む大きな要因だったのだと知らされました。 設営地の足元のコメツブツメクサ。 今わたしがとても気に入っている花です。 さて、それでは調査開始。 まずは被災しなかった対照水田の泥採取から。 ここだけを見ればとても美しい景色で、ここにいると津波がついそこまで押し寄せたなんて信じられないほどです。 昼休みにふらりと下っていった際に、一面に広がっていた田んぼたち。 しっかりと耕起されて、地力回復のためか大豆の種が播かれていたものもありました。 それらが折から戻ってきた日差しを受けて、昨夜からの雨を天に昇らせていました。 午後からは被災水田の調査。 田んぼが要するに湿地であることを教えてくれています。 昨夜からの雨が、それでもこの場所に生き物たちの棲む場所を生み出していました。 これがわたしの担当した被災水田A。 まさかこの場所に生き物たちが生息するとは、少なくともそんなに多くの種が集まっているとは、とても思えませんでした。 こちらは例外的に調査対象としたすぐ近くの泉。 これはおそらく生態系回復のシーズ(種)ですよ。 そう、占部教授がおっしゃっていたのが驚きでしたが、その時のわたしはあまりに痛々しい被災水田の姿にかなり心が折れていたのでしょう。この場所からサンプリングした担当の方は後ほど、最後の最後までソーティング作業に追われることになりました。 ソーティング開始。 つづく同定作業。 なんだかね〜。 生き物たちが次々登場するとついつい夢中になって、気がつけば自分のサンプルはほとんど写真に残すことなく保存を終えて、残りは田んぼに帰して、それから初めて写真を撮りそこなったことを思い出すのでした。 調査中はブログのことなんて全く頭になくなりますから。 そんなわけで、以下は他の方のサンプルです。もちろん、この中にはわたしも見つけたものも多く含まれます。 ヒメゲンゴロウ。 それと少し似ているけど、泳ぎ方が全く違うコガムシ。 なんとも懐かしい、コオイムシ。 うっかりすると植物と間違えそうなミズアブ。でもこれは、そのうちでもとてもアクティブな仲間たち。 貝です。ヒラマキミズマイマイ。 もしかしたらヒラマキガイモドキかも。(同定には裏返す必要があるのでした) オタマジャクシからカエルへの変態の最終段階。アマガエルか? この時期の田んぼでは、ほかにシュレーゲルアオガエルとニホンアカガエルとトウキョウダルマガエルが見つかります。 下の区画の赤いうにょうにょはユスリカの幼虫のうち有機物食のユスリカ亜科、かな。(早口言葉並みですね) で、このものすごいのがヒメゲンゴロウの幼虫。平気で共食いしそうな連中。 その下が、なんだか優雅なマツモムシです。 これらがすべて被災田から見つかったもの。 さきほどの泉から出てきたものも多いですが、実はわたしのあの田んぼとはもはや言えなかった「湿地」からもかなりの種数を発見したのでした。 調査結果報告によれば、全体の発見種数が午前中の対照水田で40種。前日の今泉の対照水田では15種でしたから、いかにこの場所が生き物の宝庫かが分かるというものです。 しかし午後の被災水田はさらに多くて、42種。例外的に泉や水路も調査したとはいえ、その豊かさには驚かされました。 この七ヶ浜町での調査によって、わたしの生態系に対する認識は大きく変わりました。 生き物たちによる生態系回復のスピードは思いのほか早いのではないか。 その生き物たちを養うのは、その場の水質や土質、気温や湿度や風の流れや日当たりとかいろいろな条件はあるだろうけれど、結局のところもっと巨大な空間そのものではないのか。 空間の質というのが適切かどうか… だから少なくともわれわれはその空間の質を高める方策をこそ、学ばなければならないのだと。 それは古いイギリスのガーデナーたちによって唱えられる、 「その地の霊の声に耳を傾けよ」 という言葉にも通じ、 「良い霊(気)」の集まる場所にこそ良質なガーデンができる という考え方に一致するものです。 8月の下旬に、わたしはまたこの七ヶ浜に戻ってくる予定です。 その時、またどれだけの新しい発見ができるか。 どんな新しい生き物たちと出会えるか。 この空間の息遣いに感応できる豊かな感性を、それまで持続して持ち続けることができるのか。 そしてまた、どんな人たちと出会う事ができるのか。 いまからとても楽しみなのです。 |