奈良、3日目は斑鳩に法隆寺と中宮寺を訪ねて法輪寺と法起寺の塔を眺めて、昔から好きでよく訪れた大和郡山の慈光院に憩い、西の京では薬師寺で時間をかけた参詣をし、これも懐かしい秋篠寺へ。最後に平城宮跡の東院庭園を見学しました。 飛鳥の石造遺跡よりも仏像が気に入った様子の娘は、法隆寺や薬師寺の仏に心を奪われた様子。 わたしも久方ぶりにお目にかかった法隆寺の釈迦三尊と吉祥天、中宮寺の弥勒菩薩、薬師寺の薬師三尊、そして秋篠寺の技芸天に心をときめかせました。 でも今回一番の見どころは慈光院だったかもしれませんねぇ。 もともと斑鳩に立ち寄るたびにお邪魔したこの寺でしたが、今回は初めてのようにその由来などに触れることができました。まあこれは、わたしが現在の仕事に就いたことと関係するに違いないのですが… 長い石の延段を何度も曲がって楼門に至ります。 そして楼門をくぐった先のこの景色。 長く鋭く仕立てられた松が、石の延段の生み出す鋭角と相まって訪問者を鋭く刺激します。 この寺を父親の菩提寺として建立した片桐石州は江戸初期、この地方の大名でありながら有数の茶人であったといいます。そのことを知って合点したのがこれら玄関に至るまでの景色の移ろいでした。 細部にわたって入念に計算された庭の工夫は茶の庭ならではのこと。 もてなしと粋の心が息づいています。 先ほど門の先で見た松と延段は、やがて玄関を抜けて書院に至る途上でやわらかなものに変化して、いくぶんか身構えた客の心を和ませます。 そして、書院に入ると同時に飛び込む遠い奈良盆地の街並みを借景にした大刈り込み。 われわれもこちらでお茶をいただき、その庭に降りました。 以前は遠くに見えた大和郡山の景色が妙に近く感じられてそれを娘に言うと、手前の木立が無くなったのでは、という意見。なるほど、その通りかもしれません。 茶室から廊下を渡って本堂へと廻りながら中庭の景色を楽しみます。 見る角度の変化で庭を多様に見せる手法は今も昔も変わりませんが、どの角度から眺めても美しい庭を造るというのは、やはり今も昔も簡単なことではありません。 ここの庭は今も丁寧な管理がされて、当時の主の気持ちを今に伝えていました。 景色、道具… そして味。 ひと通り建物と庭を拝見して、当家に伝わる「石州麺」を所望させていただきました。 ひんやりとして味が深く、細いながらも歯ごたえ十分の麺に季節の野菜の風味が染みわたって… これがなかなかの絶品でした。 ここまでのところ、シーズンオフということもあって訪問者はわれわれ二人だけ。 ゆったりと豊かな時間を過ごさせていただきました。