花と樹と風と土 ガーデン工房 結 -YUI- のガーデン通信
ガーデナーの条件〜再び、森昭彦さんについて
ニックネーム: 向井康治
投稿日時: 2011/08/17 06:09


前回のブログで森昭彦くんについて書いたのですが、後から考えてみると本来伝えたかったことがほとんど書けていなかったことに気付きました。
…お恥ずかしいことです。
少し気が高ぶっていたのでしょうか?

と言うわけで、改めて森昭彦くんについて。あるいは優れたガーデナーの条件について。


かなり以前から自分のホームページで書いてきたことでもあり、事あるごとに後輩たちにも伝えてきた優れたガーデナーの条件。

幅広い知識。
豊富な経験。
豊かな感性。
そして、心意気!

ガーデナーたるもの、植物や動物、様々な自然の有り様に関しては勿論、世の中の流れや人の心の動き、そして何よりも人が暮らしていく中で培われ蓄積されてきたあらゆる英知を自分のものにしていなくてはならないと思います。
ガーデナーたるもの、優れた仕事との出会いばかりでなく間違いや失敗の経験からも学ぶことを多くして、それらすべてを今に活かさなくてはならないと思います。
ガーデナーたるもの、もとより優れたものを見る目を養い、その美意識をフルに稼働させて万人に通じる本当の美を、自らの仕事の中で再現出来なくてはならないと思います。
そしてガーデナーたるもの、自らの良心と誇りに恥じることなく仕事をまっとうし、まっとうするためには目先の利潤や名誉、損得や労苦などで志を曇らせてはならないと思います。

…などと高く掲げた理想にわたし自身がとおに落第しているのですが、世にガーデナーを自称する者が多い中、これらに合致するのはほんのひと握り。
そのほとんどが紛いものである現実に、忸怩たる思いをしているのは井出さんだけではないと思います。

確かに最初の3つ。知識と経験と感性…それらは分かるとしても、人間としての資質まで条件にするのはどんなものか? まして利益追求を前提としないビジネスなど存在しないのではないか?

わたしが思うのは、人の幸せを左右する仕事に就くものはすべからくその人間性までが問われなければならないのではないか、という事です。
もうひとつ。
植物や動物など生き物と向き合う仕事に就くものも同様に、人間としてまっすぐな心を持たなくてはならないと思います。
さらにもうひとつ言うなら、仕事の精度や質に関して法や令によって厳しく定められている業種はともかく、それの無い業種はすでにその良心やモラルやマナーを固く信じられているのだから、それを裏切る者であってはならないという事です。
わたしはそれらすべてがこのガーデナーという職種に該当するのではないかと思っています。


あ、森くんの話でしたね。
いえ、脱線ではありません。

わたしは彼と直接対面する以前、その著作を通して彼もまたほんの一握りの希少種…レッドリスト掲載の絶滅危惧種なのではないかという気がしていました。
そして会って話して分かったこと…
現在彼が活動の中心としている国営武蔵丘陵森林公園での仕事もまた、ボランティアであるということ。
売れ筋よりも内容に比重を置いた著作も、彼の十分な収入源となっていないこと。
…やはり彼もまた、愛すべき絶滅危惧種でした。

先日お話しした井出さん然り、その井出さんがわたしと会う少し前に会談したというO先生然り、どさくさに紛れて言ってしまうならガーデン工房 結 -YUI- 然り…
まっとうで良い仕事をしようとすると決してお金持ちにはなれません。
ただ、負け惜しみでなく、心はとても豊かですのでたいていのことは許せます。
そこで優れたガーデナーとしての5つ目の条件です。

強くて温かい絆で結ばれたネットワークを持っていること!

森くんとわたしを結んでくれた30年来のキャンプ仲間がそれです。
また、普段はお互い連絡を取り合う事が無くてもいざという時は駆けつけて儲け度外視で助け合う同業者仲間たちがそれです。
そして、仕事が終わって何年経過しても未だに家族同然に扱ってくださり、いつでも温かい声援を送って下さるお客さまたちがそれです。

これも先日、井出さんと話して考えたことですが…
腕の良い職人さんはお金さえ積めば来てくれるかも知れない。
でも、その職人さんにその腕以上の良い仕事をして貰うのはお金ではなく、つまるところその依頼主次第ではないか、と。
この人間のためならもうひとつ頑張ってやってもいい、この人間の喜ぶ顔が見たいからもうひとつおまけをしてやろう…そうしたところに伝説は生まれます。
そういうネットワークを生み出せる者こそが、優れたガーデナーではないでしょうか?

わたしは勿論自分で生み出す力を持たないので、仲間たちが作ってくれたネットワークに助けてもらってばかりいるのですが、そして人間の資質においても、知識や感性においてもまだまだ学ぶことがいっぱいですが、(経験だけはとりあえず35年ばかり溜めましたので) 今ここで森くんのような人間と出会う機会をもらったということは、きっとまだまだ頑張って構わないぞという事なのでしょう。

そう言った意味で絶滅危惧種の森くんは同時に、さながらユキノシタ科のタコノアシが自然の豊かさを示す基準となるのと同じような「環境指標生物」みたいなものかもしれません。(「身近な野の花のふしぎ」P.184参照)

彼ががんばってやっているのだから、まだまだこの世界も捨てたもんじゃないぞ、みたいな…








前ページへ | 次ページへ
コメント(0) | コメントを書く
足あと
このブログのトップへ