さて、昨日は開会式+内覧会前、そして審査会前の最終メンテナンスでした。 ひと晩置いた植物たちのコンディションを確認しながら、水をやり、剪定し、花殻を摘みました。 他のコンテスト参加作品が、賞ねらいのけれん味のあるとても凝ったものであるのに対し、煉創高橋さんの今回の作品は堅実で現実的で丁寧で、それでいてとても手間暇の掛かった作品です。 いいものを作ろうという心意気とプロの姿勢が伺えます。 とは言うものの、ここまで多くの人が関わり、皆さん損得抜きで高橋さんを盛り立てようと頑張ってきましたので、その気持ちに応えるためにも高く評価されたいというのが、出展者である高橋さんの正直な気持ちのようで、この日のメンテナンスもかなり気合いが入っていました。 当然、この植物たちにも最大限の魅力を発揮して貰わなくてはなりません。 期間中、そして開会前を含めると都合10日の間、植物たちにはベストの状態を保って貰わなければなりませんが、以前に聞いた話ではドームという特殊な環境でそれを実現するのはなかなか難しいということでした。 太陽光線が当たらないし、しかし西武ドームは外周が開放されているために外気が入り込み、その上大勢のお客さんの熱気と照明で温度が上昇するという条件下で、植物がどのような影響を受けるのか… これはわたしにとってはまったく未知の体験です。 どの程度切り戻したら、何日くらいで次の花が戻ってきてくれるのか… ピークを過ぎた花をどの程度まで引き延ばして見てもらえるのか… 水の量はとタイミングはどの辺が妥当なのか… すべて、植物たちと相談しながら手探りで学んでいくよりありませんね。 さて、そんな仲間達を紹介します。 今回の基調色のひとつ、イエローを構成してくれるオーレア葉たち… 奥のモミジがオレンジドリーム。これもMIYABIの富田さんが見つけてくれました。 新芽が鮮やかなオレンジだとかで、それも見てみたいですが、このオーレアも鮮やかでとても印象的です。 夏は緑色になり、秋には赤く紅葉するのだそうです。 すてきですね。 手前がシモツケのゴールドフレームとライムマウンドの混植。シモツケのオーレア葉もいろんな種類があって魅力的です。 一方の基調色である銅葉は、ご存じノムラモミジ。 この2色の組合せはわたしのリクエストに富田さんが応えてくれたもので、最初銅葉のプルヌス…ベニバスモモの仲間も候補にあったのですが、やはり色の鮮やかさとボリューム感はこれにはかないません。 手前花壇も魅力的な組合せになってくれたと思います。 奥のサークルに車椅子を入れて休憩をするとき、外からの視線を遮るスクリーンの役割も果たさなくてはなりません。 テマリシモツケのディアボロとスモークツリーがやがて大きく枝を拡げて、これに応じてくれることでしょう。 脇を抜けるときに香りが立つように矮性のローズマリーとラベンダー・ヒドコート、そしてスクリーンの前面の彩りはアプリコット系のカレンデュラ(キンセンカ)で、これがなかなか好評でした。 左側のスペースは設計より大幅に狭くなって植栽もかなり変更を余儀なくされたのですが、ここにはメギのオーレアと銅葉(これが右手のシモツケと対をなしてくれます)、ホスタと、エッジを構成しているのは富田さんの奥さんのお薦め、斑入り照り葉ノイバラ、ロサ・ルキアエ・バリエガータです。 バラです。このガーデン唯一の… はじっこで申し訳なかったと思います。 でも、魅力的だとは思いませんか? そして、左手のデスク型花壇。 こちらは季節の花のてんこ盛り…がテーマです。 さまざまな色が入り交じって盛りこぼれるようなイメージですが、少しおとなしめになってしまったのはわたしの小心が原因です。 わたし自身の経験から、心に重いものを抱えたり、身体の自由が利かなかったりしたとき、そんな時に求められる植栽があるとすれば、それはけして整然としたまとまりのあるものではなく、むしろ自由や解放を希望するあまりに奔放で大胆なものになるのではないでしょうか。 このイメージはそうした体験から生まれたものです。 ガーデン全体で唯一ここだけ許したパステルカラーですが、キンギョソウやヒューケラの銅葉がその中で微妙に個性を主張してくれていると思います。 右手の花壇はささやかなベジ・ガーデンです。 ニンジン、イチゴ、フェンネル、ゴーヤに葉物、シルバータイムというとりとめのない組合せで、これから先のゴーヤやフェンネルの成長と共に、さらなる混乱を予想させます。 前面の植え込みはジキタリス、ピンクマーガレット、メギの銅葉、アジサイのオーレア、ホスタ、マリーゴールドとガザニア、足元はエリゲロンとセダムとオノエマンテマというたくましいグランドカバーが固めてくれました。 本当はエキナセアが欲しかったのですがこれは時期が早すぎましたので、やや優しいピンクのマーガレットに代役を務めてもらいました。 ジキタリスはもう少し色の強いものの方が良かったかもしれません。これはわたしの発注ミスです。 でも、富田さんが大小さまざまなサイズを用意してくれたので、きっと次から次へと花を咲かせて、ガーデンの前面を支えてくれることでしょう。 あ、高橋さんの代名詞であるかわいいレンガマンにお気付きでしょうか? こうしたコンテスト用のガーデンにわたしがこれまで馴染めなかったのは、きっとそれが誰のためのガーデンであるのかが見えてこなかったからだと思います。 個人邸をデザインするときはそこに住むお客さまだけを見て考えれば良いし、何か迷いが生じても常にそこまで立ち戻れば、自ずと答えが見えてきます。 でも、こうしたコンテストガーデンは不特定多数の見学者…というより正直に言えば審査員の皆さんの視線を考えなくてはなりません。いや、むしろそれが全てかもしれません。 そこでは、長い間楽しめてローメンテで、季節ごとの変化がどうとかの考察はほとんど必要なく、極端な話、実際に個人のお庭としてそれを再現したらおそらく1ヶ月も保たないようなものが評価されたりします。 あるいはお客さんがその維持に汲々としなくてはならないような庭が受賞したりします。 (あ、これは一般論です。今回のコンテストの話ではありませんので、あしからず) それはそれで割り切ってイベントとして楽しめれば良いのかも知れませんが、まあ、それがわたしをこれまでこうしたイベントから遠ざけていた原因の一つです。 もちろん、わたしの選んだ植物の組合せが本当に現実的かと言えば、正直言って恥ずかしい… 結果的に落葉樹と冬場に地上部の残らない宿根草がほとんどで、このガーデンの冬の景色を思うだに、なにやら胸を張りきれない部分が有ります。 身体の不自由なお客さまだから、冬の寒空の下のガーデニングは考察しなくても良いと言えば、それまでなのですが… そんなことを考えながらメンテナンスに余念の無かった昨日、ふと気が付くとアゲハチョウがやってきてくれました。 ずいぶんと長い時間、バーベナにしがみついて蜜を吸っていてくれていて、わたしがもしそこで車椅子の上だったなら、そっと静かに椅子を後退させて、飽かずその姿を眺めていたことでしょう。 その後にはミツバチとモンシロチョウの訪問も受けて、得意満面になったわたしを想像して頂ければと思います。 彼らもまた、このガーデンを楽しんで貰う、大切なお客さまですからね。 さて、今日の午後からは開会式と内覧会です。そろそろ支度をしなければなりません。 昨日の時点でまだ製作中だった企画ガーデンやテーマガーデンが楽しみです。 後ほど、またご紹介します。 ホームページもよろしければご覧下さい。 http://www.yui-garden.com/